筑波大学附属小学校 北川智久
1月7日に、お出かけ児造研として北海道で実技研修をさせていただきました。
札幌で活動している先生方に多大なご尽力をいただきました。あらためて感謝申し上げます。
準備段階で、「だれが実技研修をするか」「札幌や北海道で何が求められているか」ということを話し合いました。その中で、「低学年で共同絵の具を扱うということが少ない」という情報を得て(まちがいだったらごめんなさい)、共同絵の具を使った絵画の活動を提案しました。
これを機会に、共同絵の具のよさが一層広まってくれることを期待しました。
今回は、「えのぐじま」というお題で絵を描きました。
「あるところに、えのぐじまがありました。しまのあちらこちらからえのぐがふきでていて、まるで、にじのふるさとのようです」
という板書をしながら短いお話をします。
視点として、「えのぐじまに船で近づいたような見え方で描く」のか、「えのぐじまをドローンで見下ろしたような見え方で描く」のか、「えのぐじまに上陸して、ふきでた絵の具を目の前にして描く」のかを想像してから活動を始めます。
この絵を、共同絵の具で描く場合と、個人絵の具(一人一人が持っている絵の具のチューブやパレットで描く方法)で描くのでは、何が違うでしょう。でき上った絵を見ただけでは、あまり違いはわからないかもしれません。実際のところ、体験してみないとわからなことなのかもしれません。対面で参加された皆さんの反応を見る限りでは、みなさんがその違いを体感できたように思います。
たっぷりの絵の具に適量の水を入れて筆でかき混ぜると、絵の具の濃度や硬さを感じることができます。ちょうどよい水加減は、手ごたえでわかるものです。霧吹きなどで水分量を調整して「いい感じ」に溶いてから、四つ切の画用紙に挑むように筆を入れます。すると、たっぷりの絵の具が、伸びる、伸びる。手先で筆を扱うというより、手首で、ひじで、腕全体で、背中や体を使って画面に挑む感覚が味わえます。これが醍醐味です。個人絵の具を巧みに使って、混色したり筆を整えて描いたりするよさとはかなり違った体感です。
今回の共同絵の具の扱い方にもこだわりました。ダイソーで3個100円で購入した長方形のタッパーに絵の具を入れると、筆が転げ落ちずに角の部分で安定します。その絵の具を、「赤かして」、「いいよ」、といった具合に交換しながら絵を描きます。サクラクレパスの工作ポスターカラーは全部で20色ありますが、15色程度を選んでタッパーに入れます。30~40人の授業なら、赤3個、青3個・・・といった具合に用意しますし、今回の対面実技のように少人数であれば2個ずつといった感じで用意します。赤を使いたくても、教室内に2個しか赤がないので、貸し借りすることがマストになります。物理的な個数の限界もありますよね。何よりも「交換し合うときに相互鑑賞が生まれる」というよさを仕組んでの場の設定です。初対面の先生方どうしも、絵の具の貸し借りをしながら会話をしたり、何気なく目に入った他者の表現が気になったりしながら活動を進めました。中心になるものから描き始める方、背景的なものを思い描きながら描き始める方、さぐるように絵の具でできることを紙にぶつけながら進もうとする方などがいらっしゃいました。周囲の先生と違う感じに描きたいと思っている様子や、何となく影響を受け合いながら描いている様子などが見られました。
ある程度活動が進んだ時に、教師(北川)があることを思い出しました。
「みんなが描いているえのぐじまは、何時ごろのえのぐじまかな。ごめん、ごめん、夜のえのぐじまも描けるように、黒い画用紙も用意してあることを忘れていたよ」
ここで、子ども(今回は参加者の先生方)は、「今描いている絵を描き続けるか、新しい紙をもらうか」「白い紙に描くか、黒い紙に描くか」などの判断をします。オープンスペースやろうかなどの乾かす場所に描いた絵を並べてから、新しい画用紙をもらいます。やがて、絵を乾燥させる場所が鑑賞の場でもあることに気づきます。「わあ、みんな、きれい」というつぶやきが聞こえてきます。そう、「乾燥中は鑑賞中」というのがこの活動の隠れテーマです。
鑑賞は、絵を描いた後にするだけではもったいないです。見ながら学び、見てもらいながら学ぶことが大切です。だから、図工では向き合うような机の配置で活動をするのです。集団で造形活動をするよさ、というものを意識することが大切です。
今回参加された先生方の笑顔や息づかいから、満足していただいた手ごたえを得ることができてうれしく思いました。
サクラクレパスの工作ポスターは、旧来のポスターカラーに界面活性剤成分(台所用中性洗剤の成分)を混ぜてあります。価格と分量は旧来のものと同じです。伸びがよく、色が鮮やかで、パレットを洗ったときの絵の具の落ちもよいです。ガラスやプラスチックにも描けます。私はタッパーに入れた絵の具を乾燥させて保存し、使う時には水を加えて使います。複数のクラスで使いまわせるので、エコと言うか、SDGsにも配慮されています。
みなさんの地方や学校では、共同絵の具をどのように扱っていますか。この機会に、興味をもたれる先生方が増えるとうれしいと思い、記事にまとめさせていただきました。