過去の大会 46回大会

第46回大会 Aコース後半「つくる・みる・つくる・みる・つくる…」

成城学園初等学校 粟津謙吾

Aコースは東京家政学院大学の立川先生が前半,粟津が後半を受け持ちました。

午後の実技は2回同じことを行うわけですが,1回目は30名以上,2回目も20人近くの方にコースにご参加いただきました。私はここ数年オンラインの運営に携わっていたので久しぶりの実技研修です。時間配分など,不手際もありましたが参加いただいた皆さんのご協力でコースが成立しました。ありがとうございます。

 Aコース前半の立川先生のコースも後半の粟津のコースもアートカードを用いた実践です。前半は教科書会社作成のアートカードがメインでしたが,後半はパブリックドメインを用いた実技研修を行いました。

 当日資料にも書きましたが,教科書だけでなく,国立美術館もアートカードを発行しています。そこには,以下のように書かれています。

「アートカードは,あくまでも本物の作品鑑賞へと導く,複製です。…(中略)…アートカードの最も重要な役割は,クラスでの遊びを通して,子どもたちが美術作品と自分たちとの間に様々な関係を見出し,美術館で本物の美術作品を鑑賞したいと思うように,いざなってくれることにある」※

※【引用文献】大高幸(2011)「国立美術館アートカードセット・アートカード・ガイド」独立行政法人国立美術館

アートカードを使って子どもたちが遊ぶことを通して,美術作品に親しむこと,注意深く見ることなど,様々な美術鑑賞能力が発揮され,養われることが期待されているようです。

ただ,図工の授業の時数が減ってきている昨今,鑑賞でわずかな時間を削ることも惜しいと思われる先生方も多いのではないでしょうか。このような教育界の現状が鑑賞活動の広がりを阻む一因なのかもしれません。

そこで,鑑賞だけで終わるのではなく,アートカードを使った鑑賞活動の真ん中に「つくる」活動を据えて,子どもが手を動かし,何かしらの痕跡が残る活動を行いました。

①はじめに

実際に子どもたちに授業をするように,パワーポイントを使って導入しました。

ここでは美術館の学芸員さんのお仕事を紹介しました。

展覧会全体を考える上で,壁の色を変えたり,作品に合わせて額縁を変えたりすることもあるんだよ,額縁がない作品とある作品の比較などを通して額縁の効果などを感じてもらいました。

②アートカードで遊んでお気に入りを見つけよう

児童対象に行う際は,①と②は逆にします。今回はAコース前半でアートカードを使ってしっかりあそんだのでこの時間は簡単に済ませました。

③見つかったお気に入りを選んで飾ってみよう

お気に入りの作品を見つけた参加者の皆さんも,導入で額縁の意味や効果を感じているので,つくりたい気持ちが膨らんだ状態です。材料や用具はこれまで使ったことのあるものばかり,扱いなどの説明は省いて早速つくり始めます。

参加者の先生方はさすがです!

作品をしっかり感じ,自分なりにかみ砕き,感じたままに作品を飾ってくれました。

④出来上がった作品を集めて展覧会をしよう

最後に作品を集めて鑑賞しました。もっと時間があれば美術館のように展示方法にもこだわってみて…と発展させたかったのですが,とてもそんな時間なく,この時間は並べてみるだけで精一杯でした。学校で児童対象に行う際は,状況に応じて学習支援アプリを使ってもよいですね。

最後に

ざっくばらんにご参加いただいた先生方の声からもたくさんの学びがありました。私は,常時活動として普段から鑑賞を行っているので,鑑賞を身近なものに感じていたのですが,皆さんの声からハッとさせられるようなこともありました。参加者の方の声をいくつか例に挙げながら振り返ってみたいと思います。

Aさん「美術作品(鑑賞)は子どもにとって身近なものではないが,この実践を通して身近なものに感じた」というお声をいただきました。とても嬉しいお声ですが,子どもにとって美術作品が身近なものにする,ということは美術教育の大きな役割のひとつだな,と感じました。

Bさん「アートカードはよく使うが,一つだけ育てられない力があると感じている。それは作家への,作品へのリスペクトだと思っている。この実践では,作品へのリスペクトを持ちながら取り組めたのでよかった。」というお声です。その声に対して立川先生は『このように,自分の中にかみ砕いて,腑に落とすという鑑賞が少しずつ増えてきた。自分の中で作品を近くに置いておくことで,大人になって実際に作品を見たときにとてつもない身近さと親しみのあるリスペクトが生まれるのではないか。』というお返事をしてくれました。

 

 美術鑑賞にはいろんなスタイルがあり,美術館の主催する鑑賞ワークショップも盛んに行われています。対象とする鑑賞者や環境によってさまざまなアプローチがあるため,本実践は「つくりたい」意欲にあふれた学齢にはしっくりくるのかもしれません。

鑑賞の鑑には鏡(かがみ)という意味が含まれていて,作品をみることは,みる人のこれまでの経験や心の中に照らし合わせながらみているのだ,という点を忘れずに,子どもたちの記憶に残る鑑賞活動を今後も考えていきたいなと感じています。

今回使ったパブリックドメインのアートカードは教育美術2022年8月号「フリーの画像をフリーに使う」から転載して自作しています。

パブリックドメイン特集(教育美術2022年8月)

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