神村学園専修学校 薄井淳
今回の授業提案は、紙テープを使って、活動場所をだんだん広くしながら、材料や友達との関わりを変化させていく造形遊びの活動でした。子ども達はそれぞれの関わり方で、思い思いの活動を見せてくれました。まさに「みんなで造形活動をするよさを再考する」という夏研テーマを様々な視点で考えさせてくれるような活動となり、授業後のトークセッションやアンケートでは、様々なご意見、ご感想をいただくことができました。対面やオンラインでご参観された皆様、ありがとうございました。ここでは、子ども達のエピソードの数々を夏研テーマの視点から振り返っていきたいのですが、長くなりそうなので、ある1つのトラブルをきっかけに活動が変化していった2つのグループに焦点を当てて、振り返ってみたいと思います。
机で囲われた小さな空間にやってきた竹早小の2年生。机と机の間にはたくさんの紙テープがほうきの柄にセットされています。こんな空間に来たら、もう紙テープを引っ張らずにはいられません。全身の感覚を使って思いきり紙テープを巻き取っていきます。
そんなとき、ある子の巻き取っている紙テープが近くの子の紙テープと絡まって、一緒になってしまいました。気がつくと、「俺のだぞ!」「離せよ、俺のだぞ!」と、引っ張り合いになって、どちらも譲ろうとしません。周りの子達はというと、引っ張り合いに加勢する子、その様子を周りで見ている子、気にせず自分たちの活動を続ける子など、様々です。どうも収拾がつかず、教師が間に入って双方の話を聞きます。しかし、互いの主張はかみ合わず、一向に解決しません。すると、「もう全部やるよ」と片方の子達が紙テープを手放しました。分けるのではなく全部あげるとは大胆な解決方法です。
紙テープを失った子達は、新たな紙テープを探します。しかし、活動場所が広くなり、それぞれのグループがそれぞれの紙テープをもって散らばっているため、使える紙テープはもう落ちている切れ端くらいしかありません。切れ端を集めていると何かをひらめいたように、「先生、紙テープの芯使っていい?」と聞きに来ました。「いいよ」と答えると、嬉しそうに紙テープの芯を集めはじめました。この日、世間ではオリンピックの話題で連日ニュースを賑わせていました。そのことが関係してか否か、紙テープの切れ端とテープの芯でメダルをつくりはじめました。トラブルの末、造形の力を発揮し掴み取った、自分達だけの特別なメダルです。
もう一方、引っ張り合いの末、大量の紙テープを手に入れた子達は、その紙テープに体をうずめたり、持ち上げたりして、全身でダイナミックに感触を味わいます。その後、紙テープが足りない子達に自分達の紙テープを分ける姿もありました。その他のグループでも、材料を分け合う姿を多く見ることができました。そして、マスキングテープが使えるようになると、紙テープに巻いてクッションにしました。鑑賞会では、時間内にみんなが座れるように「1人10秒ね」と独自のルールをつくって、みんなを楽しませていました。そこには引っ張り合いの末、全部を手放した子達の姿もあり、「俺達は20秒ね」と、少し長めに座っていました。
最後に今回の活動はどうだったか子ども達に聞いてみると、「楽しかった」という声を多く聞くことができました。その中には、「トラブルがあったけど楽しかった」という声も、「楽しかったけどトラブルがあって嫌だった」という声もありました。子どもの正直な感想だと思います。
今回のようなトラブルはみんなで造形活動をする上で、果たして必要だったのでしょうか?嫌な思いをすることはやはり避けた方がよかったのでしょうか?もちろん、材料を仲良く分け合えるようにルールを決めておく、足りなくならないほどの十分な量を用意しておくなど、トラブルを事前に防ぐために手立てを打つこともできます。しかし、子ども達の日々の暮らしの中には、そのような親切な手立てはありません。自分で感じて、考えて、関わっていくしかありません。今回の活動では、はじめは材料の引っ張り合いになってしまったものの、その後、足りない子達に材料を分ける姿、足りないなりに工夫して表現する姿、トラブルになってしまった者同士でも互いの表現を分かち合おうとする姿など、自分達で感じて、考えて、自分達の関わりをよくしようとする姿をたくさん見ることができました。それは、みんなで課題を乗り越えて、成長しようとする姿であり、「みんなで造形活動をするよさ」の一つではないかと考えます。
大会後のアンケートで、「自分は時間内に終わらせられるように、トラブルが起きないように、管理しやすいように毎日の授業を作ってるのだなと気付かされました」というご感想をいただきました。今回の授業を通して、私自身も、自分が図工専科をしていた時を思い出し、同様のことを感じていました。ただ、これらの問題は、どちらが正解と簡単に答えを出せるものではありません。大切なことは答えを出すことではなく、目の前の子どもに対し、私達も日々、感じて、考えて、関わっていくことだと思います。その一つ一つの積み重ねが子どもの成長に繋がることを信じて、今後も再考していきたいと思います。