大会 研修 48回大会

夏研 実技研① Bコース「ならべて かさねて HAN・GA」

武蔵野市立大野田小学校 非常勤講師 堀井武彦

1. はじめに -指導案の形骸化と「技術・用具」のアップデート-

本題材は、「スチレン版画」の活動です。専門用語では「スタンプ・コラグラフ(多版多色版画)」です。

教育現場で学習指導案を書く際、つい「既習の経験を生かして」と定型句のように記述していませんか?

しかし、版画は「年に1回」です。子どもたちにとっては「毎回が初体験」なのが現実です。

筆者は、版画は「技法・技術が作品の成否に直接的に影響する題材」であると考えています。

しかし、「準備や片付けが煩雑で教室が汚れる」というイメージから、敬遠されがちな現実もあります。今回は、扱いやすい用具や水性インクの利点を活用し、近年の主流であり、あらかじめ完成の全体像を想起させる「一版多色版画(ほり進み版画等)」から脱却して、版づくりや刷りの過程そのものを楽しむ活動を提案します。

本題材のねらいは、これからの社会を象徴する「予測の困難な時代」という概念に対して、子どもたちが確かな技術を基盤に、自らの手と目で向き合う「身体性」を涵養することにあります。

2. カリキュラムのデザイン -1人2枚の必然性-

子どもたちにスチレン板と版画用紙を「1人2枚ずつ」用意します。既習が無ければ、「1枚目で技術を担保し、2枚目でイメージを広げる」というねらいがあります。

(1)活動場所の工夫 -「場所がない」「汚れる」を解決する動線と片付けのエンタメ化-

「活動場所の確保と片付け」のハードルを下げるために、教室内で動線を完全に分離します。

・刷る場所:汚れを防ぎ、授業者の眼が届きやすいよう、「自分の席(机)」で行います。

・インクをのせる場所:「新聞紙を重ねて敷き、ページをめくるように使う方法」を導入します。新聞紙を1枚めくるだけ。常にきれいな下敷き面が保たれ、片付けも折りたたんで捨てるだけで終わります。

・乾燥の場所:何度も刷り重ねるためにヘアードライヤーを35人学級に対して3台程度(コンセントの許容電力を考慮した数)を用意します。順番待ちのタイムラグを逆手に取り、複数人で声を掛け合って乾燥コーナーで乾かします。

・子どもが喜ぶ「片付け」:現在の版画インクは扱いやすい「水性」です。水道シンクに「食器洗い用のスポンジ」をいくつか用意しておけば、多くの子は喜んで自主的に片付け(洗う作業)をやってくれます。片付けすらも、子どもにとっては楽しい活動の一部になります。水が冷たすぎる時期は避けた方がよいかも(笑)

技法との出会い

まず、1枚目のスチレン板を、「任意に3分割」させます。

これが最初の「予測困難な場」です。

次に、表現の土台となる「技術」を示範します。技術指導の核心部分や、その先に広がる表現の展開については……

この続きは、夏研当日の会場でお話しします。

スポンジローラーの扱い方ひとつにも、実は明確な理由があります。なぜ「1方向のみ」なのか。なぜインクを「薄く伸ばす」ことにこだわるのか。

そして1枚目で得た技術と感覚が、2枚目でどのように主体的な探究へとつながっていくのか。偶然写された形、ひっかいた線、重なった色から、子どもたちはどんなイメージを組み立てていくのか。

3. 本実践の教育的価値(まとめ)

下図は、昨年度3年生の実践例の一部です。全体を見渡すとダイナミックにイメージが開花した多様性もありますが、題材の設定が反映して類型があるとも読み取れます。きっちり「パズル」のように組み合わせた活動もあれば、パーツをずらしたり、重ねたり、ひっかいたり、各児童の自由さや奔放さ、あるいは迷いや困惑も含んだ試行錯誤の痕跡も読み取れます。

よく「作品主義」という概念で、造形教育における過剰な指導や硬直的評価観が批判的に論じられてきた経緯があります。しかし一方で、造形活動は結果としての「作品」を通して、「行為の痕跡」から、実証的に児童の「造形的な見方・考え方」が読みとれる可能性が埋め込まれています。

エリオット・W・アイスナー(米国 1933~2014)※は、「教育的鑑識眼(知覚的読み取り)」と「教育批評(知覚的な読み取りの言語化)」という概念で造形教育活動の評価について示唆に富む提言をしています。

確かな「技術の指導」、環境の工夫、そして楽しい片付け。これらがあるからこそ、子どもは失敗を恐れずに「予測困難な場」を楽しむことができます。この「技術と表現の融合」を、ぜひ夏研の会場で体感していただければ幸いです。

※エリオット・W・アイスナー

(池田吏志,小松佳代子訳)

『啓発された眼-教育的鑑識眼と教育批評-』(2024)新曜社

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