東京都講師 堀井武彦
―ポケットに入れて楽しむ図画工作―
1題材について
(1)本題材の主旨
四つ切画用紙に代表される“規格化された表現型式”を問い直し、現代の子どもたちがより自由でストレス(苦手意識)なく、親しみをもって取り組める活動を提案します。
本題材は、巻物型の可塑性がある造形活動を通して、「えがく」「組み立てる」「見せ合う」という3つの行為を連動させます。「手軽に持ち運べるアート」として家族や友人と繋がる実感を育みます。
あわせて、現代アートや日本のサブカルチャーを背景とする「スーパーフラット(村上隆)」の思想を、図画工作教育に内在化させる実践的試みでもあります。
(2)四つ切画用紙という慣例の再考
四つ切画用紙が教材として普及した背景について、AIから以下の回答(筆者要約)を得ました。
・全国共通規格の必要性(戦後の教育制度)
・印刷業界との親和性(流通しやすさ)
・掲示、展示への適正サイズ
・子どもの腕の可動範囲に会うサイズ
・コンクール規定との整合性
これらには一定の合理性がある一方で、現代の子どもたちが親しむコンテンツ(まんが・グッズ・カード等)との造形感覚の乖離を生みやすく、題材に埋め込まれた表現型式等の根本的な問い直しが必要ではないかと考えました。
(3)子どもからの問い「この作品、いつ持ち帰れるの?」
これは、折に触れ子どもたちから投げかけられる問いです。多くの場合、教師の都合(掲示や評価)により持ち帰りが制限されます。そこで持ち運びが容易で、気軽に紹介・鑑賞できる本題材を構想しました。
〇身近な他者との相互鑑賞を通して、多様な価値観や表現への気づきを得る。
〇形や色の組み合わせを考えながら、自分なりのルールや世界感をつくる面白さを味わう。
〇造形活動を通して、他者に紹介したり持ち歩いたりすることで、自己表現への自信を高める。
- 材料・用具
・八つ切り画用紙(薄タイプ)またはA3上質紙を縦半分に切ったもの ※図1参照

・色画用紙や色上質紙、障子紙等へのアレンジも可能
・タピオカ用ストロー×1本、輪ゴム2個
・描画材:色鉛筆(クーピー)、マーカー等、シールなど
※パスは色うつりがあるため避けるのが望ましい
・用具:はさみ、のり、 セロテープまたはマスキングテープ(白)
(2)表現形式の着想【工作に表す】
・絵巻物(図2)のように紙を連ねて巻いて収納する
・カラー・マスキングテープ等のイメージ(図3参照)


(3)表現様式(図柄)の着想【絵に表す】
・飾り罫線や反覆模様(図4・5参照)
・カード型図柄、フレーム状配置(図6参照)



(4)鑑賞の導入【遊び方の表現形式】
・トレーディングカード感覚での鑑賞
・家族や友人と見せ合うことで対話を生む(図7参照)
・同じ形をたくさんかいてみる・大きさや配置を変えてみる・飽きたらモチーフを変える☆要点:表現の方向性に「制限」ではなく「ヒント」を与え、内発的な探究を促す。 |

(5)指導の手立て(子どもの活動が停滞したときのサポート)
4まとめ
本題材は、「かくこと」と「まくこと」のリズムと可逆性のある造形活動を通して、子供たちが図画工作に対する親密さと自己肯定感をもつことをねらいとしています。題材の新規性や形式の珍しさを強調するのではなく、「なぜ、この形式で描くのか?」「この作品を誰に、どこで見せるのか?」という問いを内包した小さな提案です。ご参会の皆様ご自身の実践と重ね合わせながら受けとめていただければ幸いです。
追記

全体を開いて(左図8)鑑賞したとき、部分ごとに描いていた時とは異なるイメージ広がりを感じられます。紙を継ぎ足して新たなイメージを加えたり、巻物を複数つくったり、日常的なアート・ルーティーンへと発展させる可能性を秘めています。
収納時(右図9)は小さく折りたたむことで、ポケットに収まり、旅行や移動の合間でも描き足すことができます。
暇つぶしの落書きから「表現」へとつながる導線として、
「絵に表す」ことのハードルが下がることを願っています。

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