「切りひらいて、とめて、それから…」 −行為と表現について考える−
お茶の水女子大学附属小学校 堀井武彦
オンライン参加の皆様の準備(可能な範囲で) 【用具】・はさみ ・ホッチキス(針は200本位あると安心) ・描画材(色鉛筆、マーカー類) 【材料】・紙コップ3個 ・紙皿(直径10㎝程度3枚) ・厚紙B5版大3枚(厚さ目安:工作用紙程度) |
1「行為」から始める
図画工作科の教科目標(1)に「対象や事象を捉える造形的な視点について自分の感覚や行為を通して理解するとともに〜(略)」とあります。その「行為」の具体を提案します。
<行為①>[切り開く]
・りんごの皮むきのイメージで、紙コップを約1㎝の幅(小指の幅)で
切りひらきます。途中で切れたらホッチキスでつなぎます。
※発展バージョンとして紙皿も同様に切りひらくことも試してみましょう!
考察 行為①を大量に集めると図のように造形的な興味をかき立てますが、このまま題材とするには課題が多いと考え<行為②>の設定にしました。
<行為②>[とめる(とじる)]
・厚紙(B6版大程度)に行為①をホッチキスで止めていく。
【条件】
・厚紙からはみ出さない様に表だけにとめる(後に裏面も可とする)。
・紙を浮き上がらせないように折ったり、ひねったり、重ねたりしてとめる。
考察 「行為」になぜ、条件をつけるのか?と疑問を持たれると思います。それは、条件をつけずに実践した際、図7の様な展開に収斂する傾向が多くみられたからです。他にも「迷路」という発想も多くありました。「ジェットコースター」や「迷路」の発想を否定しているのではなく、材料特性や状況により発想展開の類型化を誘因する現象への対処療法としての修正でした。
教材としての「最適性」を考える視点の示唆と捉えました。
2「行為」から「表現」への分岐点は?
この命題は言うまでもなく大人(教師)の問題意識です。子どもが意識することはありません。であるからこそ、教師は子どもの活動を見とる視点として意識する必要があるとも考えられます。下左図を「かべのデザインです!」と嬉々とした表情で作者は見せに来ました。とても興味深い報告でした。白い台紙の上に細く切り開いた紙皿を縦横にホッチキスでとめる「行為」の集積が「かべのデザイン」という創造的な価値を生み出したわけです。下左図は下右図のようにまとめられました。この表れを教科目標の「自分の感覚や行為を通して〜」の具体として捉えると、「行為」が「表現」へ変容する分岐点のイメージを掴むことができるのではないかと考えます。
3図画工作の「コベツサイテキ」とは?
下表の2つの視点で図画工作の「コベツサイテキ」を考えてみました。
1 個別最適な学び |
①指導の個別化 ・支援が必要な子供により重点的な指導を行うことなど効果的な指導を実現する。 ・特性や学習進度等に応じ,指導方法・教材等の柔軟な提供・設定を行う。 下図は3年生で本題材を試験的に実施した頃の活動です。この作者は、紙コップを切りひらく「行為」の段階から紙コップの底の円に関心があったようで、結果的に紙コップを2つ使ってバスのタイヤに見立てました。授業者の想定とは関係なく、「行為」の段階で作者の構想が芽ばえたと考えられます。子どもの実態に配慮した題材設定や支援の工夫の重要性を実感しました。 |
②学習の個性化 ・子供の興味・関心等に応じ,一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する。 彩色過程に見られた3種類の傾向を右図に抽出しました。この段階では「主題」はそれほど明確化されてない「行為」の延長の様にも受け止められます。図画工作における各自の学習課題は、「行為」に没頭する時間の中に埋め込まれており、無意識の内に各自が掴 み取っているのではないかと考えています。 |
2 協働的な学び |
・「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう,多様な他者と協働しながら学ぶ。 ・集団の中で個が埋没してしまうことのないよう,一人一人のよい点や可能性を生かすことで,異なる考え方が組み合わさり,よりよい学びを生み出す。 考察 図14は台紙の形を切っている。台紙を切ることを制限していないが、当初の条件設定の同調圧力から逸脱した「孤立」した活動と捉えてしまうことで、授業デザインの脆弱を突きつけていることに蓋をしてしまうことになる。 図15も台紙の両面を活用することに着目することで立ち上がった着想である。題材の節穴をすり抜けている。 |
「見立て」がここまで発展すると賞賛する他はない。 「表と裏で人が浮かび上がってきます。」お見事! |
【参考文献】「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す・個別最適な学びと協働的な学びの実現〜(答申)