冬研 研修 造形論 2025

【おでかけ児造研】材料としての「絵の具」から「絵に表す」活動を問いす

ー題材名「せんのぼうけん(ずがこうさく1・2上/日本文教出版)」を通してー

担当 東京都講師 堀井武彦

個人用絵の具セットを、どう活かすか

 小学校学習指導要領解説図画工作編では、低学年の「絵に表す」活動の用具として

「クレヨン,パス,共用絵の具など」、「用具でもあるが,形や色を持つ材料の一つとして考えることができる」と示してあります。

一方で、現在の小学校現場では、小学校入学と同時(あるいは2学期から)個人用絵の具セットを準備する慣習が定着しています。

 子どもたちは、保育園や幼稚園ですでに共用絵の具を使った活動をもっているため、絵の具を使う活動そのものへの関心は高いのですが、特に低学年においては、共用絵の具の準備や片付け、維持管理が教師の大きな負担になることも少なくありません。

 そこで、本ワークショップでは、個人用絵の具セットを「用具」としてではなく、材料として活かす視点から、題材名「せんのぼうけん(第1学年)」の活動を提案します。

パレットを使わない、という選択

 本題材では、パレットを使わず、直接画用紙に絵の具を置く活動を行います。その意味で、この活動は共用絵の具に準じた生活をもつと同時に、絵の具を「形や色をもつ材料の一つ」として扱う実践でもあります。

この視点に立てば、本題材は低学年に限らず、学年を超えて応用可能な活動として捉えることもできるでしょう。

 

ステップ1:かき始めとかき終わりを定める(図1)

白い画用紙
図1

図1のように、画用紙の対角線上に直径1.5㎝程度の○シールを貼ります。赤シールをスタート地点、青シールをゴール地点として示します。

「絵に表す」活動において、「自由にかきましょう!」という投げかけは、とりわけ慎重であるべき言葉だと考えています。

何を、どのように、どの程度行えばよいのか見通せない状況は、子どもにとって決して「自由」ではなく、むしろ不自由さを生みます。そこで本題材では、活動の枠組みを先に示すことを大切にしています。

ステップ2:使う絵の具の量を意識する(図2)

画用紙の絵具を置いた画像
図2

 赤シール(スタート地点)の上に、シールからはみ出さない量の、任意の色の絵の具(白と黒を除く好きな色)を絞り出します。

この行為には、子どもの身体性に働きかける重要な意味があります。

チューブから絵の具を「どのくらい」絞りだすかという加減の操作は、今後の造形活動だけでなく、歯磨剤や塗り薬、調味料など、日常生活に密着したジェル状素材を扱う経験とも深くつながっています。

 デジタル仕様の生活環境に取り囲まれた現在だからこそ、こうした身体感覚を伴う操作の意味を改めて大切にしたいと考えています。

ステップ3:筆圧や筆触を意識する(図3)

線を描いた画像
図3

 「赤シール(スタート)から青シール(ゴール)に向かって、できるだけ長い線のぼうけんを始めます。」と指示した後、少し示範した上で、「太い線も細い線もいいけど、途切れないように、ぼうけんを続けます。」という条件を伝えます。

 子どもたちの実態に応じて、「絵の具がかすれてきたらたらどうする?」と投げかけると、「水を足す!」「絵の具をつけなおす!」といった子ども自身の経験にもとづく応答が返ってきます。それらを共有した上で、図3の状況をイメージしながら活動を進めます。

ステップ4:ちがう色のぼうけんをかき加える(図4)

線を引いた絵
図4

 図4程度の状況を想定し、新しい色のぼうけんをかき加えます。

この際、シールを貼る位置は、子どもが決めます。

この後、「ぼうけんで出会った人・動物・風景」をかき加えていくため、余白がのこることが大切です。新しいぼうけんは2回に留るのが妥当でしょう。

ステップ5:ぼうけんで出会ったものを書き加える(図5・6)

子どもの絵1
図5
子どもの絵2
図6

 ここで用いる描画材は、クレヨン、パス、色エンピツ、マーカーなど、子どもたちが使い慣れたものです。

本題材では、低学年の「絵に表す」活動において特にネックになりやすい「空や地面をぬりつぶす」、「余白を残さない」といった背景処理の既成概念を問い直す場としても位置付けています。

 一般的に、背景をぬりつぶす表現が慣例化してきた背景には、泰西名画のイメージの影響があるのではないでしょうか。

一方で、日本美術(水墨画、狩野派、琳派、浮世絵など)で、余白を生かした表現や、金箔などによる処理が多くみられます。

 「絵に表す」活動における固定的なイメージを、子どもとともに問い直すこと。それ自体が、この題材の重要なねらいの一つだと考えています。

おわりに

 本ワークショップでは、題材名「せんのぼうけん」を通して

 ・絵の具を「材料」として捉え直す視点

 ・低学年における活動の枠組みの与え方

 ・「絵に表す」ことの固定概念への問い

について、参会者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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