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第46回大会 Bコース「手で感じる土ねんどの魅力」

筑波大学附属小学校 北川智久

土ねんど(彫塑用ねんど)の量感を体で感じ、ねんどの可塑性(かそせい:形を変えやすい性質)を生かして造形活動をたのしむことをねらって展開しました。

参加した方は思い出しながら、参加しなかった方は一緒にやっているような気持ちで読んでいただけるとうれしいです。

①土ねんどのかたまりから、針金で2㎏のねんどを切り出します。スパッと切れる心地よさ、ねんどのずっしりした重さが体幹に響きます。大人や小学校高学年なら2㎏ぐらいがちょうどよいでしょうか。低学年なら1㎏ぐらいが適当でしょう。活動の内容にもよりますね。

②さあ、「ねんど体操(ねんどの活動のウォーミングアップ)開始。早くねんどを切り分けた人から、待っている間にねんどのまん丸をつくります。小さめのボーリングの玉のようです。ねんど板の上で転がしたり、ハンバーグのタネから空気を抜くように右手と左手を行ったり来たりさせたりします。手のひらの使い方で、なめらかな表面が生み出せます。

③次は高さ競争です。先生役の北川が基本的な方法を演じます。実は、ある方法について子ども(参加者)の意識に刷り込むための演示です。ねんどを上から押すようにしながら転がし、棒状というかタケノコ状にします。タケノコを立ててねんど板にしっかりはり付けます。はり付けないと倒れやすいということも確認します。脇を締めて、両手に力を入れて太いタケノコを細めながら上にのばします。ひねり出しの方法を意識づけているのです。上に行くにつれて細くなり、片手ずつでもひねり出しができるようになると、のぼり棒をつかむような手つきでぐいぐいぐいとひねり出しを加速させます。そのときに、ねんどにつく指の跡がポイントです。この跡がつくのは上手にひねり出せている証拠。そして、1mものさしで高さを測ると…、約60㎝でした。さあ、みんなもチャレンジ開始です。

④なかなか上にのばせない子どもがいたときには、タケノコづくりまでは手伝うこともあります。少しひねり出しもやって見せ、その先をやらせます。上手にできている参加者が、50㎝メートルを超えてきました。競争のように夢中になってねんどをつかんでいます。ねんどで手が汚れるなどということを気にしている人は一人もいません。道具を使わず、ねんどの全量を動かす活動をしっかりしておくことで、道具に頼らず全身でねんどに挑む準備が出来上がります。60㎝メートル、70㎝メートルと、どんどん高い塔が立ち並びました。

⑤続いて、こんどは全量を10個のねんどの団子にする活動です。ちぎったねんどを手早くきれいに丸め始めます。こちらの人は、最初に大まかに10個に分けてから丸める作戦ですね。「早いけど少し雑」とか、「ていねいだけど時間がかかる」など、人それぞれです。その様子が目に見えてわかるところがおもしろいので、声をかけながら様子を見守ります。10個つくることが目的ではなく、手のひらをたくみに使って丸く仕上げる感覚を味わうことが大事です。

⑥団子づくりが途中でもよいので、自分の手に合う大きさのねんどの団子を一つ選ばせます。つまみだしを始めます。大人に交じってお子さんも数名いっしょにいるので、反応がいいです。ねんどを一か所つまみ出すと、りんごだとか、きのこだとかつぶやきます。おや、キノコはさかさまだね、などと言いながら2本目をつまみ出します。今度は、ウサギだとかアヒルだとか言い始めます。3本目、4本目、5本目とつまみ出していくと、だんだん動物のようにも見えてきます。5本のでっぱりを四肢と頭に見立てて、胴体をぐいぐい細長くひねり出していくと動物やら人間やらに変身します。土ねんどは可塑性(かそせい:形を変えやすい性質のこと)が高いので、頭や手足をつけ足すつくり方よりも、つまみ出し・ひねり出しを推奨します。

⑦「グアナコってなあに?」という、想像の生き物をつくり出す活動に入ります。一人一台端末で調べると、グアナコの正体(小柄な鹿のような動物)がばれてしまうので、現在ではグアナコではなく「むぎゅたん」という名前に変えています。むぎゅっとひねり出して生まれる生きものという願いを込めています。足は何本かな?、しっぽはあるのかな?、背中はどんなかな?、顔はこわいのかな?、羽はあるのかな?、などと問いかけながら、自分が想像したグアナコ(むぎゅたん)をひねり出します。このタイプの授業で難しいのは、「何をつくろうかな」と考えているうちに、球や立方体のようにねんどをまとめてしまい、時間切れになりそうになるとそこに目や口をちょちょっとつけただけの、冷蔵庫にしっぽが生えただけのような「動きの少ない」グアナコになりがちなことです。そんなとき、よくねんどを動かしているAさんの作品を見た先生が、「Aくんすごいね。そのグアナコ、『なんじゃこりゃ』、って感じだね。よくねんどが動いている」「そうだ、みんなも、なんじゃこりゃ、をめざそう」と呼びかけました。ねんどを動かせなかった子たちも、既存の形をつくるのではなく、ねんどを動かして「なんじゃこりゃ」をめざすようになり、手が動き始めたのです。この話をすると、参加したみなさんも「なんじゃこりゃ」をめざしてねんどを動かすようになってきました。時間で区切って、お互いの作品?を見合います。最高の誉め言葉は、「なんじゃこりゃ」ですよ、と伝えたところ、随所で「なんじゃこりゃ」が聞こえました。

⑧せっかくつくったグアナコですが、いったん丸めて次の活動に入ります。かたまりを針金でスパッと切って、切り口の美しさを味わうことから始める活動です。これは、低学年の子どもには向きません。せっかくの切り口を手で触って丸めてしまうからです。高学年だと、上手に切り口を生かして活動できます。ねんどが持ち上がってしまうときは、だれかに手で支えてもらいます。両手を動かすのもよいけれど、片手を固定して反対の手を大きく動かすと放射状の切り口ができます。工夫しすぎると、切ったねんどがはがせません。ちょうどよい感じを味わい、少し加工して鑑賞します。

⑨ここまでは、個人の活動でした。「たのしい」「うれしい」「ねんどが気持ちいい」という言葉がたくさん聞かれ、本大会のテーマである、「 みんなで造形活動するよさを再考する」を十分に感じて、他者の存在を意識しながら活動できました。さあ、次は2~3人のねんどを合わせて、共同(協働)の活動に入ります。針金で切る、かきだしベラでほじくる、削ったねんどを上へ上へと積むなど、いっしょに活動する人と気持ちを合わせて活動します。教科書題材に、「ほって、けずって、ひらめいて」というものがありました。その原題というか通称名は「ぐりぐり、ほじほじ」です。ちょうど、その題材を担当した安倍先生が参観されていましたので、思い出話も紹介できました。そう、題材名には「行為」だけが示されています。ゴールは意識せず、行為の積み重ねをたのしむような活動をします。写真のシマシマ模様の切り口はどのようにして生まれると思いますか? 引きばね(引きばね⇔押しばね)という、つり下げ式のはかり(ばねばかり)などに使われるばねをホームセンターで購入し、両端をペンチで挟んでグイっと引き延ばした針金を使ってねんどを切るとこのような切り口が生まれます。希望者には、引きばねを伸ばす体験もしていただきました。

⑩がちがちにかたまった土ねんどが登場しました。薄いものは、ゴジラの背中のヒレ?のようにねんどに差して飾れます。がちがちのかたまりねんどは、ぼかし網で削って粉ねんどにして、土ねんど全体にふりかけて遊びます。「ちょうどよい硬さの土ねんど」は、一種類ではありません。目的によって、ちょうどよい硬さの正解は違います。

⑪さあ、お互いの作品?を見合います。歓声をあげながらねんどで汚れた手でスマホを持って撮影をしています。後でしっかりスマホの汚れを取ってくださいね。

⑫片付けがたいへんでしたが、省略します(泣)。終了後の「ざっくばらん討論会」では、満足感を味わえたと言う感想をたくさんいただきました。本大会テーマである、「 みんなで造形活動するよさを再考する」について、個人の活動と共同(協働)の活動の両方で違いを感じながら味わえたということもいただきました。参加者に喜んでもらえて、授業をする側もたのしく教えることができました。これも、みんなで造形活動をするよさに通じるものですね。

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